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リトルチルドレン
友達に勧められて映画「リトルチルドレン」を見に行ってきた。
「タイタニック」のケイト・ウィンスレット主演の映画である。
舞台はアメリカNY郊外の住宅街。
ケイト演じる主人公は、子どもの遊ばせる公園で、いわゆる公園デビュー
をするが、一緒にいるお母さんたち、そして自分の子どもの世話にうんざ
りしている。

その公園に現れる、いい体格をした子連れのハンサムガイ。連れの母親
たちは、彼のことを密かに「プロム(アメリカの卒業パーティ)キング」と
あだ名をつけて、うっとりしている。
日本で言うならヨン様みたいな感じ?

その母親たちに彼の電話番号を聞き出せば、5ドルあげるといわれ、
ケイトは彼に近づき、そこで二人は衝動的に抱き合い、キスをして周りの
母親たちを驚かせる…ところから物語は始まる。
(その後母親たちがクモの子を蹴散らすように子どもを連れていなくなる
のが、いかにもアメリカっぽくて笑えるんだけど)

この映画を一言で言うなら、日常の退屈さからいかに逃避するのか、
という物語である。

ケイト・ウィンスレットだけでなく、その相手になるプロム・キング、
そしてその街に戻ってくる、小児性愛として服役していた男、その母、
そしてその家族に対して、執拗に攻撃を加え、街から追い出そうとする
プロム・キングの知人、などなど、登場する人物のほとんどがなんかどこ
か病んでいる感じで。といっても、本当に精神疾患にかかっているわけで
はなくて、いわば日常に退屈していたり、もしくは何かから現実逃避を
していたり、もしくは執着をしている、という人たちで。

だから作品を見ていても、こういう人いるなあ、から始まり、いや、でも
自分の中にもこういう一面があるなあ、と思い至る感じで。
なんていうのか、見ていて人間の隠れた側面、ダークサイドを見せられる
感じがして、ちょっと重ーい気分になり。

ただ、この作品が上手いなあ、と思うのは、そういう話をサスペンス風の
ドラマに仕立てていることだろう。
しかも単なるサスペンス風ではなく、ロマンティックなサスペンス。

だから物語が進んでいくにつれて、この先どうなっていくんだろう…と
ドキドキする展開になっていて(特にクライマックス付近)
それって、でももしかすると不倫をしているカップルが味わっているドキ
ドキ感に近いのかもしれないな、と思うのである。

ラストの展開は、ロバートデニーロとメリルストリープの「恋におちて」を
ほうふつとさせる展開だったし(そういえばあの作品もNY郊外の住宅街の
話だった)

最初はタイトルしかしらなくて、「リトルチルドレン」だから小さな子ども
たちがいっぱい出てくるのかなあ、と思っていたら、多分、大人になりき
れない、大人たち、の意味なんだろうなあ、見終わってから気がついた。

主役二人の恋の行方だって、あの物語の最後、男の子と女の子がトロッコ
で逃げていく「小さな恋のメロディ」を思い出したし。
(実際の二人の恋の行く末に関しては、作品を見ていただくとして)
多分、20年くらい前だったら、「ピーターパン症候群」って名前がついたん
だろうなあ、という感じで。

この物語のもう一つのキーが、街に戻ってきた小児性愛犯罪者の物語で
ある。
彼が街に戻ってきた、ということで、街中に彼の写真が貼られ、家の入り
口には、ペンキで誹謗中傷を書かれてしまう。

でも、年老いた母親にとっては、彼は犯罪者ではなく、かけがえのない
ただ一人の息子であり、溺愛の対象で。
だから、息子が小児性愛に走ってしまうのは、相手がいないからだと思っ
て、出会い系?の雑誌に息子のプロフィールを載せて恋人募集をする(犯
罪歴はもちろん隠して)

そして、彼ら家族を夜な夜な車で乗り付けて、クラクションを鳴らし、
大声を上げて追い詰めていく、元警官。
彼は、もちろん善意のつもりで、小児性愛犯罪者を、子どもたちに近づけ
ないように監視しているつもりだし、周りの住民たちも、自分の近くを
小児性愛犯罪者がうろつくことに対しては不快感を示して、彼の行動を
咎めてはいない。

だけど、その元警官の行動は時として暴走する。
それは例えば、自分がむしゃくしゃした時だとか、落ちこんだ時、猛烈な
攻撃衝動が湧き上がって、小児性愛犯罪者とその家族に向かうのだ。

そこに描かれているのは、行き過ぎた善意の怖さ、である。
そうなんだよね、多分悪意以上に、善意を基にした攻撃衝動の方が何倍も
タチが悪いんだと思うのだ。
(悪意の場合には、本人はこれが悪だと自覚している事も多いだろうし)

アメリカの場合だと、例えば人工中絶反対を唱える人たちが、中絶を行な
った医師を殺しちゃった例なんてのも、行き過ぎた善意なんだと思うし。

また例えば、物語の冒頭、ケイトウィンスレットが公園デビューをして、
連れの母親の規律あふれる行動に、うんざりして息が詰まる感じがして
いるのも、もしかすると同じような行き過ぎた善意のようなものなのかも
しれない。

この物語の主人公の二人は、多分、そういう善意のかたまりというか、
ポリティカリーにコレクトな事に対して、基準がちょっと緩いのかもしれ
ない。
それは例えば私たちの学生時代の話ならば、厳しすぎる校則に対して、
どこかでそれを反則して逸脱したいという悪の衝動の誘惑に駆られてしま
う感覚というか。

そして多分、アメリカだけではなく現在の日本でも、今って善と悪でいっ
たら、建て前として善が強くなりすぎているんじゃないのかな。

変な話、自分が小さい頃だったら、平気で道端で立小便したり、近所の
うちの庭の木からビワを盗んだりしたけれど、今の子どもたちには同じ
事は出来ないような気がするし。
(まあ、そういう小さな非行?をする事が良いと言っているわけでもない
のだが)

もちろん、善が悪いことだと言っているのではない。ただ、善意の行き
過ぎは時として悲劇を生み出すし、また現代の都市に生きる上でのある種
の息苦しさみたいなものは、そういう善の強さが招いているんじゃないの
かな。
つまりは、少しは緩さというか、法やモラルでガチガチに締め付けないで
住む世界のほうが住みやすいんじゃないのかな、という感じなんだけど。

で、アメリカの場合、そういうポリティカリーにコレクトな、というか
良識的な世界のモラルっ境界線って、日本に比べてもきっちりとしている
ような気がするんだよね。

以前、ここで紹介した、河合隼雄と安野光雅の対談本「人がついとらわれる
心の錯覚」
の中にあるエピソードで、個人的な悩みは、奥さんや夫、もしく
は職場の同僚には打ち明けられない、という話が書いていった。
それは、奥さんに弱みを見せた途端にやられてしまうから、彼の国では
カウンセラー(しかも近所だとばれるので遠い場所の)が流行るんだと、
河合隼雄が紹介していたのも、この作品を見るとうなづけるのである。

もう一つ、同じ本の中で、河合隼雄がアメリカの講演で使った日本映画の
中に、ちょっとだけエロティックなシーンが含まれていたとき、アメリカ
の受講生の中には、そういうシーンを見せられたことにショックを受けて
抗議する人がいたらしい。

その時河合隼雄が、そうは言ってもアメリカでもポルノはあるじゃないか
と訊ねると、「アメリカでは、ポルノを見る人は、ああいうのを面白いか
ら見るんだと決めている奴が見るんであって、我々は見ないという方で
生きている。もしそんなのを見てしまったら、自分の人生観を全て変えな
ければならなくなる。自分が尊敬できなくなる」から見ないらしい。

そこで河合隼雄が、そんな立派なことばかり言うから、一方で麻薬をやる
奴が増えてくるんじゃないのか、と言ってもその言葉は通じない。
「いや、そんなことは全くない。我々が正しい。正しい方法があるのに
麻薬をやる奴は間違っているんだ」と議論は平行線になったらしいけれど、
この作品を見ていると、何となくうなずける気がしたのである。

それは例えば、コンビニの雑誌売り場で、ヌードグラビアが簡単に見られ
ちゃう日本では考えられないくらい境界線のハードルが高い気がして。

だからこそ、そのモラルの境界線を越えちゃったところでは、日本に比べ
ても、逸脱のバリエーションはすごいことになっているのかもしれない。
この映画でいうなら、ケイトウィンスレットの旦那さんの例とか。

特にアメリカではそれだけ完璧な父親ないし母親にならなきゃいけないと
いうプレッシャーは強いのかもしれないし、そうはなりきれない人にとっ
ては、逃げ道がなかなか見つからないのかもしれない。

その結果として、人と人のつながりが確かなものに感じられないっていう
のは、現代に生きる人の共通の痛みなのかもしれないなあ、と思うので
ある。

だから、この映画で描かれている人たちって、物語の中でケイトウィン
スレットが言っていたように飢えているんだと思うんだよね。
それは寂しさだったり、満たされない感じだったりとか。
それは、あの偉そうな公園ママにしたって。

この映画の最後には、そういう満たされない思い、渇望に対しての一つの
処方箋というか、解決法が描かれているような気がするのだ。
それは、同じ思いに悩む人全てに効く薬ではないかもしれないけれど、
私自身は最後まで見て、ちょっとホッと救われた気分になったのでした。

| 映画・演劇 | 23:25 | comments(0) | - |
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