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映画「さくらん」
今回は映画ネタ。見てきたのは「さくらん」
映画は総合芸術だ、という意見があると思う。すなわち、優れた役者、
優れた脚本や原作などの素材がいかに素晴らしかったとしても、カメラ
による撮影や照明技術、作品を彩る美術や音楽、そしてそれらのスタッ
フを見事にとりまとめる事の出来る監督の力量が伴っているかどうかに
よって、作品の質は大きく異なるのかも、しれない。

その上でいうならば、この作品、「総合芸術度」といったものがあると
するならば、かなりの高得点をマークできるんじゃないのかな。
今回が初監督であり、写真家の(しかも演出家、蜷川幸雄の娘でもある)
蜷川実花の手による極彩色の原色の映像と、今回音楽を担当した椎名
林檎の退廃的な雰囲気もある映画音楽に彩られて、非日常的な空間と
しての吉原という場所をうまくスクリーンに定着させていると思うのだ。
物語の冒頭、作品の舞台となる吉原の風景に、金魚が泳いでいるカット
が挿入されている。
これはイメージカットなのかな、と思いながら見ているとカメラが引い
てきて、吉原大門の欄間?の部分に金魚の水槽がはまり込んでいて、
その水槽越しの映像であった事がわかる。

そしてこの金魚、というのがおいらんを初めとする吉原にいる女達の
メタファーになっていて。映画の中のセリフで、吉原に買われてきた
ばかりの少女時代の主人公に対して、菅野美穂演じるおいらんがこう
言う。
金魚は、野に放って3年も経てばただのフナになる。金魚が金魚である
ように、美しく着飾っていられるのはビードロ(ガラスの水槽)の中だけ
だと。
それは、吉原という非日常的な世界でしか生きられない、美しく着飾っ
た女たちをも言い表しているわけで。

そしてその吉原にあるお店の、顔見世の場所で、男客達に品定めをさせ
るために、美しく着飾っている女たち。その中に土屋アンナ演じる主人
公、きよ葉もいる。
彼女が少し首をかしげ、シナを作り、長キセルから煙をはきだす、その
仕草の艶めかしさに、思わずグッと画面に引き込まれるのである。


でね、彼女ら遊女たちの見得と意地の張り方と、日常生活のギャップ
の描き方が上手いと思うのだ。
吉原の中では、女たちが主役。
夜の吉原は男性客が主役でも、昼の吉原は女の園なのだ。

この物語を一言でいえば、幼い頃に女衒によって吉原に売られた
少女、きよ葉が女郎としてやがて花魁まで上り詰めていく、という物語
だと思う。

物語の前半で、引き取られた少女のきよ葉と、お店の女将を演じる
夏木マリとのやり取りは、女将が夏木マリということもあって、宮崎
アニメの「千と千尋の神隠し」をほうふつとさせる。「千と千尋〜」って、
神様相手にこういう世界をメタファーとして描いた作品だと思うし。

その少女が成長した後の、土屋アンナと夏木マリのやりとりが面白いの
だ。猫なで声で機嫌を損なわないように、頼み事をする夏木マリに対し
て不機嫌に対応している、日常のきよ葉の素の雰囲気が可愛いというか。
夜のきよ葉がカッコいいとするならば、昼間の弛緩しているきよ葉は
愛らしく感じられるのである。

そんな風においらんの夜の華やかな世界だけでなく、昼の日常の姿も
きめ細やかに描いていることに好感が持てるのだ。

ただし主人公、きよ葉が上り詰めていく、おいらんへの道は簡単な
ものではない。
女の園であるが故に同じ遊女や、格上のおいらんからの妬みや足の
引っ張り合いもある。
その店の頂点であるおいらん、高尾とて自分が本気でほれた男、間夫
(まぶ)が果たして本当に自分の方を向いているのか、相手に惚れてし
まったが故に苦しんでいる。

そして間夫とラブラブな関係になっているきよ葉が、本気で相手を
愛していると知ったからこそ、仲をさこうと罠に陥れる。
惚れても負け、惚れられても負け、とおいらん高尾がいうシーンが
あるんだけど、その言葉が重みを持って感じられるのだ。


私が観た時はちょうど水曜日のレディスデー(女子のみ1000円)の日の
レイトショーだったので、私の周りは女性だらけ。男女比2:8くらい。
そんな中観ていたら、この映画が思った以上にエロティックな場面が
出てくることにビックリして。もっとあっさりとした映画だと思って
いたので。

でもね確かにこの映画、エロティックなんだけど下品ではない、ので
ある。なんていうか、ギリギリの所でバランスを取っている感じ。
この映画の場合、濡れ場というか、女郎が客を取っているシーンは、
一般に男性が見たいと思う箇所は見せないんだけど、実際にいたして
いる場面でも、なんか不思議に生々しく感じられるのだ。

それは例えば、女優さんの目線の演技とか、しぐさや振る舞いにほのか
にエロスが灯っている感じで。

それはもしかするとこの作品の場合、主要なスタッフを女性が担当して
いる事も大きいのかもしれない。
すなわちこの映画、女性目線のおいらん映画なんだと思うのだ。

多分ね、これが男目線の映画だと、もっとエロ方向で、中年男性誌に
煽られたおっさんたちが女のハダカ目当てに来る感じになったんじゃ
ないかと思うんだよね。

でもじゃあ男の立場で見ていて、面白くないかというと、そんな事は
なく。
男の立場でいうならば、自分がこの作品に出てくる客たちの中で、どの
タイプだろう、と想像する楽しみもあると思うのだ。

すなわち、絵師役の永瀬正敏なのか、大店のボンボンの惣次郎役の
成宮寛貴なのか、羽振りのいい大名役の椎名桔平なのか、それとも
遠藤憲一演じる武士、坂口なのか、はたまた市川佐團次演じる、
新造好きの隠居なのか、なけなしのお金をためておいらんの元へと
やってくる大工なのか、もしくはお店の側の安藤正信なのか。

おいらんと遊ぶためには、お客の側も粋に振舞わなければならない
(ただしっぽりとすればいい訳でもないらしい)あたりが、その当時の
粋とはなんぞやと考えさせられるなあ、という感じで。


今回の作品が初監督作となる、蜷川実花にしても、写真家出身という
ことで、もっとアート方向にふった、サイケデリックな色調の映画に
なるのか、と思ったらそうでもなく。
個人的に一番感心したのは、月明かりの照明の作り方で。
お店の座敷の中が、赤を基調とした原色系でまとめられた印象がある
分、お店の外の夜の場面での、照明が抑えられて月明かりに照らされ
ている静かな感じが、印象に残る作りになっていると思うのである。

しかもちゃんと、それぞれの役者さんを魅せるようになっていると思う
んだよね。
できたらこの人の監督作品をまた見たいなあ、と思わせる作品でした。
安野モヨ子原作のマンガも、できれば読んでみたいと思います。
| 映画・演劇 | 00:04 | comments(2) | trackbacks(0) |
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金魚の水槽は「ビロード」じゃなくて「びいどろ」ですよ。
ビロードは絨毯です。笑
| | 2007/04/09 1:33 AM |

これは思わぬ言いまつがいをしてしまいました。
さっそく訂正しておきました。
ありがとうございます。
| harry | 2007/04/09 8:35 AM |










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